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新解さんの真実 04/10/15

1992年文藝春秋掲載から生まれたベストセラーに赤瀬川原平著「新解さんの謎」がありました。発行部数が1700万部にも達し「国民的辞書」とも呼ばれる三省堂刊「新明解国語辞典」の独特で不思議な解釈について調べたものでした。

辞書を使うという時は急いで調べる必要がある時がほとんどだから、本来の調べ物が済んでしまえば、それ以上読み込むことはしないのが普通でしょう。だから我が家にも、「新明解国語辞典」第4版がありましたが、その不思議さに気付くこともなく静かに本棚の端においてありました。

「エーッ! お前って、そんな奴だったのー !!」
もう長い間、そばに居ても気がつかなかった自分をごまかしなら、赤瀬川さんの指摘する部分を一々ページをめくり確認しました。確かに不思議な辞典でした。

ベストセラーですが、未読の方はここをどうぞ。 新解さんダイジェスト 

小中学生が初めて手にする辞典、それも売れ行きもトップクラスの超メジャーな辞典です。その辞典の中に垣間見える不思議な人格、それを新解さんと名づけて、名探偵赤瀬川ホームズと助手のSM嬢ワトソンがその全貌を推理していきます。

このnoteのように、言いたいことだけ書いたものであれば、すぐにどんな奴が書いているか、漠然と分りますが、相手は辞典です。簡単には正体を現しません。しかし、名探偵コンビは昼夜の熟読により、特定の単語や意外なところに散りばめられている新解さんの本音らしきものを手がかりに、徐々にその正体を突き止めていきます。

が、しかし、ラストは新解さんを特定せず、終わっています。

この辞典には、金田一京介先生の他、柴田武、山田明雄、山田忠雄の諸先生の名前があります。私は、その時、この諸先生全員が新解さんだと思っていました。ですから、それ以上、解明せずに終わっていました。

ところが、最近、編者の一人である柴田武先生が赤瀬川さんとの対談で新解さんの正体を白状しているのを発見しました。

新解さんはこの辞典の主幹である山田忠雄先生その人だったのです。柴田先生が辞典の本文について変えた方がいいと山田先生に提案しても決して取り上げてもらえず、「辞書は文明批評だ」という信念を持ってワンマン編集を貫いたそうです。1972年の初版発行時、三省堂へ「動物園」、「宿舎」の語釈に対しクレームが多数きたそうですが、私の持っている1989年発行の第4版ですら 別記 の通りです。
しかし、山田先生は1996年79歳で亡くなられていました。

山田忠雄先生に対し俄然興味が湧き関連書籍を調べてみました。
  • 鈴木マキコ著「新解さんの読み方」…この事件の発端となったMS嬢ワトソン本人による「新解さんの謎」パート2ともいえるもの。いや、こちらがパート1なのかもしれない。
  • 武藤康史著、監修柴田武、「明解物語」…明解国語辞典の歴史を山田忠雄・見坊豪紀両先生の貴重なインタビューや関係者・編集者など辞典作成者サイドからの視点で詳細に紐解いている。その他著書に「クイズ新明解国語辞典」「クイズ新明解国語辞典 続」など辞典関連書籍多数。
  • 山田忠雄著「私の語誌 1」、「私の語誌 2」…山田先生が亡くなる直前まで手掛けていた辞書が出来るまでをテーマとしたもの。私は難しくて読了できませんでしたが、辞書編集がいかに大変かは少し分りました。
新明解騒動の張本人であるMS嬢ワトソン、鈴木マキコ氏は、前述した著書の中で「わたしにとっての新解さんは山田先生ではありません。新明解国語辞典に書かれた文章から伝わるキャラクター、それが新解さんなのです。」と述べ、赤瀬川ホームズともども山田先生との面談は残念ながら実現しなかったようです。

私は今回一連の書籍を読み直し、新明解国語辞典こそ山田先生そのものだと実感しました。この辞典に書かれている事は、小説の作者がキャラクターに自分を投影させたものとは違って、明らかに山田先生個人の意見だと思います。だから、我が家に残っている新明解国語辞典は「新解さん」とは呼ばず、親愛の情を込めて「山田爺!」と呼ばさせていただきたいと思いました。
新明解国語辞典を引く時は、「山田の爺さん」に聞いてみよう。そんなふうに言いたいと思います。

大学同期の見坊豪紀先生(けんぼうひでのり、明解国語辞典の生みの親)のお誘いで、一生を辞典作りに捧げた山田先生。物知りで清廉潔白そして少し頑固でお茶目な「山田の爺さん」として、日本の大半の家庭の本棚で、これからも生き続ける事でしょう。


(追記)山田先生が亡くなられた翌年の1997年、柴田武先生が中心となり編集された新明解国語辞典第5版が刊行された。これ以降の新明解国語辞典は正確には「山田の爺さん」とは言い難く、それこそ「新解さん」と呼ばせていただきます。しかし、この第5版、柴田先生以下編者の皆様のご努力で山田スピリッツは健在のようです。

新明解国語辞典を読む…まだまだ新解さんの謎解きは終わっていません。読み応え十分、オススメ◎のサイトです。

◆赤瀬川原平著は次の通り
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