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風の街 03/10/11

私の人生で悔いが残る事のひとつに、ウィンドサーフィンがあります。

中級テクニックのウォタースタートが出来ずに終わってしまった事です。これをマスターすれば強風下でのウィンドがラクに楽しめるのです。
悔しいので、老体に鞭打って頑張りましたが、最近はスッカリご無沙汰で、ボードはヨットの水遊びグッズになってしまいました。

大きな波が必要なサーフィンに比べ、ウィンドサーフィンは風さえあればいいので、場所を選ばずにそこそこ楽しめます。
もっと人気の出ていいマリンスポーツだと思うのですが…、初心者には慣れるまでちょっと辛いのがネックになっているのかもしれません。

まだ結構体力に自信のあった頃、風の強い日のことです。
ビーチに座っていると、風にあおられた砂が頬にあたり、痛くて顔を隠さなくてはならないほどです。
普段ならとっくに止めているのに、体調も良く調子に乗って沖まで出て行きました。
案の定、沖では三角波がひどく、ジャイブ(方向転換)に失敗して沈してしまいました。

強風と三角波の中でのセイルアップ、失敗するたびに海の中へ落とされ、どんどん体力が無くなっていきました。この時がウィンドの悲しさ、休んでいるだけでも風下に流されていきます。風下は太平洋です。早くしないと遭難という惨めなことになってしまいます。あたりにはやはり必死にセイリングしている私の相棒以外誰もいません。ここはどうしても自力で帰るしかありません。

それから強風と波との必死の格闘が始まりました。不規則な三角波の中、ボードの上に立ち強風に負けずにセールを海から持ち上げるのです。体全体で目一杯引っ張りますが、波がバランスを崩します。何度海に落ちたでしょう。くたくたの体をだましだまし、何度目かのトライの後、やっとセールが持ち上がりました。
風には強さのリズムがあります。強風の時セイリングは腕の力だけでは足りませんので、ボードから体を風上に投げ出して、セールに全体重をかけて踏ん張ります。風が弱くなった時は体をボードの上に起こして、腕の力だけでポールを支えます。この切替のタイミングを間違えるとすぐ海の中へ落ちてしまいます。
もう落ちられません。もう一度セイルアップをする体力も気力も残っていない事は分かっていました。体全体で風のリズムに注意しながら必死のセイリングが続き、やっと足の付くところまできた時は本当にほっとしました。

頭の中は真っ白、体はボロボロ、その時です。どこからともなく鐘の音が聞こえてきました。驚いて、顔をあげると空一面が夕日で真っ赤に染まっていました。鐘の音と真っ赤な空。出来すぎた演出の舞台上にいるような不思議な瞬間でした。
ただそこにたたずんでいるだけ、感動はゆっくりと私の芯まで沁みていきました。

日本のウィンドの聖地・風の街・御前崎での出来事です。


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