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■ 平和な世界


朝から日差しが強かったが、いつもの夏の日だった。
だが、今日はいつしか伝説の日といわれるだろう。

頭がツルッと光るのがジャロ。五分刈りのほうがアッパ。
ふたりは大きな体を近づけて静かに話し合っていた。
僕たちは彼らを取り囲むようにして、話し合いの結末を待っていた。
話し合いは夜明けから昼頃まで続いた。

そして、ついに歴史的な同盟が成立した。

「平和!」
誰かが叫んだ。
もう誰にも止められなかった。
「平和!」「平和!」の大合唱が始まった。

僕には信じられなかったが、これは現実だ。
長い間、お互いの立場の違いから戦いが続いてきた。
この僕たちの戦いは、僕たちが存在する限り続くものだと思っていた。
しかし、今日、僕たちは立場の違いを乗り越えて同盟を結んだのだ。
もう、仲間同士が殺しあう事はない。
お互いが助け合い、協力し合う平和な世界がやってくるんだ。

でも、その実現のためにもう一つの大仕事が残っている。
僕たちの平和を乱す、お互いの敵を倒す事だ。

最初は僕たち空軍が一斉に空へ飛び立った。
すごい数だ、数えられない。青空が黒く染まった。
いつの間にか始まった武者震いが止まらない。
このままひたすら彼らの町まで飛び続けるだけだ。

下のほうに、陸軍が草原を行進しているのが見える。
こちらもすごい数だ。

僕たちの突然の襲来に、人々が慌てふためいている。
平和のためなら仕方がない、その中へ、
僕は急降下で突進した。
戦いは町外れへの空軍の攻撃で始まり、
一気に町中を飲み込んでいった。

多くの仲間が死んでいった。
僕も戦いの詳細を伝えることなど出来やしない。
ひたすら戦ったんだ。
戦いは三日三晩続いた。

そして、不気味なほど静かになった。
どうやら、僕たちが勝ったようだ。
僕の体はもう動かない。

誰かが叫んでいる。
ここアフリカから始まった戦いは、
あっという間に世界中に配信され、
地球規模の戦いとなっているようだ。

結果は見えている。
僕たちが勝利するだろう。
何といっても数の上で圧倒的に有利だ。

この地球上に人間はわずか約63億人。
僕たち昆虫は150万種、数はいまだに分からないが、
地球上の全生物の70%は昆虫だと言われている。
最後には必ず勝てる。

始まりはミツ蜂のコミュニケーションだった。
大型ススメ蜂の襲来を防ぐため、
近隣のミツ蜂が協力してススメ蜂と戦った。
今までは、ミツ蜂同士でも隣の巣のミツ蜂は敵だったんだ。
その時、突然、
ミツ蜂の間でコミュニケーションする能力が生まれた。

その能力は、ミツ蜂から他の蜂に広がり、
それがアリや蝶やトンボなど他の様々な昆虫に広がっていった。
色や形が多少違っても確かに僕たちは仲間だ。
その証拠にコミュニケーションができる。
コミニュケーションができるといことは、素晴らしい事だ。
相手の心が分かるということだ。
皆が平和な世界を夢見ていた。
仲間同士で殺し合いなんてナンセンスなんだ。

本来、僕たちは人間のように無駄に殺しあったりしない生物だ。
だから、戦う事より共存の道を探るようになり、
昆虫同盟が行われるまでそれほど長い期間は必要としなかった。

でも、これから、どうなるのか僕は心配だ。
しばらくは人間や動物を食べていけばいいのだろうが、
人間や動物が地球上から姿を消したらどうすればいいんだ。
僕たち昆虫はお互いを食べあわないと同盟を結んでしまっている。
花や草や木々が次の食料となるだろう。
でも、それで足りるのだろうか。

生きていくということはなんて残酷なんだ。
何かを食べないと、餓死してしまう。
食べ物は全て生きている。
生きるためには、他の生き物を食べなくてはならない。
お互いが殺し合い、食べ合わなければ生きていけないなんて、
僕たちは平和を望んではいけないのですか。
生きること自体が矛盾している。

僕たちの繁殖力は桁違いだ。
その上、今まで、誰かに食べられてしまっていた子供達が、
ほとんど全員大人になっている。
あんなに静かだったこの戦場でも、
お腹がすいたと言う蜂やアリの子の声が、
地鳴りのように聞こえ出した。

僕の体はもう感覚がない。
間もなく、死ぬだろう。
死んだ昆虫は、昆虫が食べてもいいのだろうか、
そこまで僕は昆虫同盟の詳細をまだ聞いていない。

もう、だめだ。



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